構文主義

Last-modified: Sun, 07 May 2023 17:15:07 JST (356d)
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概要 Edit

  • 伊藤和夫師が考案した、英語を読解するための方法論のこと。
    • 英文法を英文和訳の際に利用しやすいよう体系的に再構築し、その知識を使って合理的にひとつひとつの文の構造・骨格を把握していこうとする姿勢である。
    • 語学教育分野で言うところの、「文法訳読法」という教授法の一種。
  • 駿台英語科では、伊藤師以後、伝統的にこの方法論に依拠して英語を教えている。
  • ただし、伊藤師本人は構文主義という言葉を使っていなかった。

特徴 Edit

  • 構文主義の方法論を簡単に言うと、「英文の構造を把握し、必要に応じて和訳しながら内容把握しつつ、最終的には(難しい文以外は構文を取らずに)英語を読んで内容がすぐに理解できる『直読直解』が出来るようになることを目指す」というものである。
    • 英文の構造を把握することを『構文を取る』、あるいは『構造分析(パーシング、to parse/parsing)』という。
  • 今では駿台はもちろん、他予備校や一般の高校でも広く浸透している方法論である。日本の英語教師の大半が当たり前のように構文把握を重視するのは、直接・間接を問わず伊藤師の影響といってよいだろう(いわゆる「伊藤以後」)。
  • 構文主義では、「予測と修正」という考え方が重視されている。
    • 具体的に言うと、文頭に前置詞があったら後続の文はどうなるか予測をたてる、実際によみすすめるうちに予測にあわないことがあったら修正する、といった考え方である。
    • 夏期講習の「英語構文特講」のテキストを読むと、駿台英語科が今でもこの考え方を大事にしているのがわかる。
    • ただし、伊藤師自身はこの予測という問題に対して、少なくとも文型論においては明確な言及をしていない。しかし、「読みはじめた時から、文の構造についてある予想を立て、文が形の上で自分の予想通りに進行してゆくか、予想を裏切った展開になるかを確認してゆく作業が大切だ」(藤村、2019)と、ほとんど定義とも言えることは述べている。
  • 構文主義と関連が深い概念として、「読解文法」と呼ばれるものがある。
    • これは伊藤師や山口俊治師が整備したもので、英文法を英文和訳の際に利用しやすいように体系的に再構築し、「受験生がどう頭を働かせれば、英文の構造を読み解けるのか」を誰でも習得できる形でまとめたものである。
    • 伊藤師は返り読みを極力、しなくてもすむような体系を意識していた(「直読直解」を目指していた)。
    • 伊藤師は、品詞論を中心に据える従来の学校文法ではなく、文構造を中心とした文法でなければ英文解釈には役立たないと主張した(伊藤、1997)。
      • 品詞分解のような読み方は、ある程度は必要悪として認めていた。しかし、英文の原型が分からなくなるほど文を細切りにすることは、返り読みにつながることもあって否定的であった。

駿台における構文主義 Edit

講師陣/英語科「指導方針」も参照

  • 駿台英語科は、伊藤師以後、伝統的にこの方法論に依拠して英語を教えている。
    • 近年の入試問題の変化(処理速度の重視・リスニング/スピーキングの重視など)に伴い、必ずしも構文に依拠しない多様な授業が展開されるようになってきているが、それでも構文・文法による精読を基本姿勢とする講師がほとんどである。
    • このため、受験生や英語教育者の間では「駿台英語=構文」というイメージが根強く、構文主義英語を勉強したいがために駿台に通う受験生も少なくない。
    • 逆に、訳読重視の方針が合わないと感じる受験生の場合、駿台英語を避けることもある。
  • 駿台の通期カリキュラムでは、長文の読み方・解き方を学ぶ「英文読解」の授業の他に、構文を使った精読を学ぶ「英語構文」という授業が設置されている。
  • 駿台では構文主義の方法論で英語を精読することを、特に『英文解釈』と言っている。
    • 一般の英語教育界では、伊藤師の晩年の時代から、入試問題の超長文化に伴って「英文解釈」という用語は徐々に廃れてきており、現在は「長文読解」と境界線が曖昧な「英文読解」という用語が主流となっている。
    • 駿台のカリキュラム的には、講座やテキストの名前に「英文解釈」と書いてあったら、「英語構文」の授業に近いことを読解でやるのだと思っておくとよい。

英語教育史における構文主義 Edit

  • 伊藤師以後、様々な予備校講師が構文主義を批判・継承し、独自のメソッドを発表するようになった(藤村、2021)。
    • 藤村(2021)が代表例として挙げる中の一部だけでも、富田一彦氏の「読解100の原則」、薬袋善郎師の「F.o.R.」、太庸吉師の「表現リレー」、表三郎師の「ポスト構文主義」、今井宏師のパラグラフリーディングなど、非常に多数に及ぶ。
    • 関西駿台にファンの多い表師の「ポスト構文主義」は、伊藤師の構文主義を肯定しつつも、内容や表現の把握不足・構文の過度な重視・パラグラフリーディングの欠如を批判し、それらを修正することを狙っていた。
      • もっとも名前からも分かるように、ポスト構文主義においても構文の重要性そのものは前提とされている。
  • 日本の英語教育界では「英語構文」という言葉が複数の意味で用いられており、混同に注意が必要。
    • 駿台では、英文の文構造(construction/sentence structure)そのものを指して「英語構文」と呼んでいる。
    • 駿台以外では、単に「構文」と言った場合、"クジラ構文"・"so-that構文"・"It-that構文"などといった、熟語的な特殊構文・特定の定型表現のことを指すことが多い。実態としては「英文公式(formula)」という言葉が近い。
    • 「熟語的な特殊構文とその和訳を公式化する」という発想は、元々伊藤師以前の時代から行われていた方法で、漢文の句形(句法)を模していた。
    • 谷・西村(2006)は、「伊藤以前」の、山崎貞『新々英文解釈研究』(研究社)に代表される「熟語 - 公式派」のことを「『構文』主義」と呼んでおり、非常に紛らわしいことになっている。
  • 受験英語の文脈においては、「伊藤以前」の受験英語教育における訳読法と対比して論じられることがある。
    • 「伊藤以前」の訳読法とは、場当たり的に英熟語や英文公式(formula)の知識を用いて和訳していくやり方で、入不二(1997)はこれを「熟語 - 公式派」と呼んでいる。
    • 山口(1997)によれば、伊藤師と山口師は英文読解の基盤を構築する共同作業の中で、それまで品詞論と熟語的な表現が根幹をなしていた英文解釈法を改め、文構造の体系的な提示による一貫性のある方法を確立していった。伊藤師は、英語の文構造の分析と解明をしていく上で、Sweet, Jespersen, Poutsma, Curmeなどの専門書に当たっていた(山口、1997)。

参考文献 Edit

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